日銀植田総裁、長期金利「1%大幅には超えず」

CHOKO - マーケットアナリスト丨CFA

2023-10-31 17:26:36

日銀は31日に開いた金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正を決めた。これまで長期金利の事実上の上限としていた1%を「めど」として、一定程度超えることを容認することにした。

植田総裁は同日午後に開いた記者会見で「YCCの運用をさらに柔軟化する」と語った。経済・物価情勢の不確実性が極めて高い状況の中で「(政策運営の)柔軟性を高めておくことが適当」とも述べた。理由として、長期金利を1%以下に強く抑え込んだ場合に「(市場機能低下などの)副作用も大きくなりうる」と語った。

YCCの今後の運用については「(金利の)水準、変化のスピード等に応じて機動的にオペで対応していく」とした。指し値オペについては毎営業日の実施ではなく「必要に応じて活用」していく考えを示した。長期金利が「1%を大幅に上回るとはみていない」と話した。

金利上昇について、経済の実力と関係のない「根拠の薄い」投機的な動きは「機動的なオペで抑える」と語った。一方で、何が投機的な動きかを日銀が判断することの難しさも率直に認めた。

このタイミングで動いたことについては、金利上昇圧力が高まって日銀が国債の大量購入を迫られる状況よりも「少し前の段階で動きたい」という考えがあったと明かした。7月の政策修正と同じく、市場に先んじて動く狙いがあったという。

植田氏は「はっきりとした上限を置くことで、近づいたときに(大量の国債購入などで)副作用が高まることを避けたい」と話した。政策の柔軟化が「市場機能の回復につながることがあればいい」とも考えたという。

一方で、マイナス金利政策などの金融緩和は引き続き継続していく姿勢を示した。物価2%の持続的な実現については「多少前回に比べれば前進している」と語った。ただ「十分な確度をもって見通せる状況にはなお至っていない」と指摘。マイナス金利解除が見込めるような状況に近づいたのかとの問いには「閾値(いきち)に達していない」と述べた。

物価目標実現を判断するうえで「来期の春季労使交渉は重要なポイント」と語った。物価上昇が賃金上昇に跳ね返り、賃金上昇がサービス価格を引き上げていくという循環を確認していく姿勢を強調した。

好循環に向けては「来年の名目賃金が引き続き上昇し続けるか」が重要との見解を示した。日銀としては「そこそこの可能性で起こる」とみていると期待感を示した。2%目標の達成後にYCC撤廃とマイナス金利解除をどのような順番で進めるかは「決め打ちはしていない」と述べた。

足元の円安については、為替変動が景気に影響を与えないか、政府と緊密に連携をしつつ「注視していきたい」と語った。為替の動きが物価見通しを大きく変えるような場合には「政策変更に結びつきうる」と踏み込んだ。

日銀はこれまで0.5%程度を長期金利の上限の「めど」としたうえで、国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」で金利を1%以下に抑え込んできた。今回、上限のめどを0.5%程度から1%に引き上げた。指し値オペは従来のように毎営業日実施して厳格に金利を抑え込むのではなく「機動的に」実施するとした。これによって、長期金利が1%を超えることを容認する。

日銀は2022年12月に市場機能の改善を目的に、長期金利の上限を従来の0.25%程度から0.5%程度に拡大。7月に「めど」に変えた上で、大量の国債購入で金利を強制的に抑え込む事実上の上限を1%としていた。7月の政策修正からわずか3カ月で次の一手を繰り出すことになった。

日銀が修正に踏み切った背景には、長期金利が日銀の想定を上回るペースで上昇してきたことがある。指標となる新発10年物国債利回りは31日に一時0.955%と13年5月以来の高水準に上昇。「念のための上限」(植田総裁)の1%に迫っていた。

作者

CHOKO、上智大学経済学部卒、テクノロジー半導体業界アナリストとして3年間勤め、CFA 、FRM資格を取得した。

日本と中国の金融業界での実務経験があり、よりグローバルな視点から市場を分析することができ、株式ファンダメンタルズ分析、オプションプライシングと戦略、ボラティリティ分析を得意とする。 

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