国際収支統計の基礎知識

CHOKO - マーケットアナリスト丨CFA

2023-11-17 11:46:37

国際収支統計とは

居住者と非居住者の間で行われた経済取引を記録した統計です。国際収支は主に「経常収支」「資本移転等収支」「金融収支」の3つから構成されます。今回のコラムでは「経常収支」に焦点を当てます。「金融収支」は金融資産・債務の取引を差し引きしたものです。居住者と非居住者の間での、M&Aなどの企業買収に絡んだ取引や、株式・債券などの証券の売買取引などが金融収支に計上されます。なお、「資本移転等収支」は日本においてはあまり大きな金額ではないため、ここでは説明しません。

経常収支は、「貿易・サービス収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支」の3項目から成ります。モノの輸出入を差し引きした貿易収支や、旅行や知的財産権の使用料などのサービス収支は実感しやすいと思います。第一次所得収支は海外投資から得た利子・配当などで、第二次所得収支は政府や民間の海外資金援助などを指します。

平たく言うと、経常収支は「海外からの稼ぎ」と理解するとわかりやすいでしょう。経常収支黒字が大きいということは、海外からの稼ぎが大きいということですので、その国の通貨のプラス材料となります。

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縮小する日本の経常黒字

日本の経常収支の過去からの推移を見てみると、長年にわたって黒字が継続していますが、2011年頃から黒字が縮小する動きがみられるようになりました。図1に示したように、日本の巨額の対米輸出が問題視された1980~90年代は、「海外からの稼ぎ」というとほぼ貿易黒字で占められていました。一方で、当時は貿易不均衡是正が叫ばれ、円高圧力が高まっていました。そのため、日本の企業は円高対策として生産拠点を海外に移転すべく、「直接投資」という形で海外に子会社を設立しました。その結果、経常収支の内訳が貿易黒字から第一次所得収支の黒字(=投資収益)へシフトすることとなりました。国内でモノを生産して輸出で稼ぐのではなく、生産は海外子会社が行いそこで上がる利益が配当という形で国内の親会社に還流するようになったわけです。

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そして2011年、原子力発電所停止による燃料輸入増加を背景に貿易収支は赤字に転落しました。2015年以降は、貿易収支がほぼ均衡するようになり、「経常収支黒字≒第一次所得収支」という状態になりました。

しかし、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー価格が高騰したことで日本の輸入総額が増加し、22年上半期を見ると、貿易赤字が拡大、経常収支は投資収益が安定的に推移していることでかろうじて黒字を維持する状況です。

サービス収支と訪日外国人旅行者

訪日客の回復に伴い、旅行にかかわる国際収支の黒字が拡大している。財務省が10日発表した2月の国際収支統計(速報)によると、旅行収支は2239億円の黒字だった。前年同月と比べて16倍で、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年2月を上回る。貿易収支の赤字が続く中、訪日客の増加が日本経済の回復を下支えしている。

貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支の全体でみると、2月は2兆1972億円の黒字だった。経常黒字は2カ月ぶりだ。

旅行収支は訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を差し引く。訪日外国人の増加は海外に出る日本人の勢いより顕著だ。

日本政府観光局によると2月の訪日外国人旅行者は147万人ほどで前年同月と比べて90倍近くになった。19年の6割弱の水準まで戻った。

2月の出国日本人数は53万人程度と前年同月比で10倍超だ。19年比では4割に届かない。19年2月より円安が進んだことも旅行収支の黒字幅を押し上げたとみられる。

ただ旅行収支を含むサービス収支全体では赤字が増えた。2月の赤字額は2204億円と前年同月比で79億円拡大した。ネット広告などの「その他業務サービス」の赤字が広がっている。

円安・資源高は足元で一服しているものの、輸入額が高止まりする構造は変わっていない。

貿易収支の赤字は6041億円と前年同月比で4091億円増加した。輸入額は8兆2484億円と9.8%増えた。石炭や液化天然ガス(LNG)などの価格上昇が響いた。輸出額は7兆6443億円と4.5%増だった。

Autor

CHOKO、上智大学経済学部卒、テクノロジー半導体業界アナリストとして3年間勤め、CFA 、FRM資格を取得した。

日本と中国の金融業界での実務経験があり、よりグローバルな視点から市場を分析することができ、株式ファンダメンタルズ分析、オプションプライシングと戦略、ボラティリティ分析を得意とする。 

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